チノパン
IVYシャツがボタンダウンなら、ボトムはやはりチノパンである。おおきなくくりとしてはコットンパンツと称されるもので、そのなかでもチノクロスで織られているパンツなので、通称チノパンと呼ばれている。
チノの語源は、チャイナのフィリピン語発音だそうで、おそらく当時フィリピンから中国南東部あたりで織られていた綿布が使われていと考えられる。
第一次世界大戦のときに米軍が軍服用に大量につかったのが世の中に出回るきっかけとなったそうだが、チノパンといえばカーキ色のボトムの代名詞にまでなってしまった。
チノパンについても、そのディテールには細かい決まりがある。シルエットはパイプ・ステムズという細っそりとした直線型のシルエットで、これはIVYパンツの俗称にもなっている。
日本では「ダブル」の裾などと呼ばれているパンツの折り返しだが、正式名称はカフド・ボトム。タキシード用などの正装パンツをのぞいては、IVYパンツには必ずこれがなければならない。折返しのないIVYパンツなどあり得ない、といっても過言ではないほど、当時は重要なディテールであった。
まだある。バック・バックルド・ストラップ、尾錠飾りの登場だ。パンツの尻の上部中央部につける尾錠どめの細帯。かつてのIVYパンツにはこれもかならずつけられていた。チノパンはもちろん、スーツにも、コーデュロイにも、ショーツにもである。
このチノパンという代物は、ズボンといえばジーパンしか知らなかった中学生当時の店主に衝撃を与えた。ジーパンのほかにオシャレに見えるズボンが世の中に存在するということを認識したショックははかりしれないものがあったのだ。
このパンツを着こなしのアイテムとして取り入れるだけで、ジーパン一本やりのコーデが一変するのである。考えようによっては、いままで持っていたシャツやジャンパーなどの上着の数の倍のコーデが可能になるのである。大いに興奮したものだ。
このチノパンは、IVYアイテムのパンツのなかで、いちばん組み合わせの範囲が広いことでも、その存在価値がある。ブレザーにネクタイをきっちりと結んでプレスの効いたチノパンを合わせれば、ビジネスシーンでも行けるし、ポロシャツをかぶって素足にデッキシューズで夏のカジュアルにもばっちりである。
秋にはボタンダウンシャツとクルーネックセーターにあわせて、品のいい感じも演出できるし、元が軍服なので、アメカジのレザージャケットにも相性抜群である。
とにかくこのパンツ抜きにはIVYパンツは語れない。男性の着こなしを考える上でも、チノパンというアイテムが入るだけで、ドレッシーなウールパンツとデニムの間を埋めてくれる存在として、一本上質なチノパンツの購入を考えてみてはいかがだろうか。