厚労省が性別記載を任意とする履歴書様式例を公表
厚労省は4月16日、これまで公正な採用選考を確保する観点から、JIS規格の履歴書様式使用を推奨していたが、昨年7月にJIS規格から履歴書様式が削除されたため、新たな様式例を検討し、公表した。
これまでのJIS規格履歴書からの変化点は以下のとおり。
- 性別欄を選択ではなく任意記載欄とし、未記載も可能と但し書きを設けた
- 「通勤時間」「扶養家族数(配偶者を除く)」「配偶者」「配偶者の扶養義務」の各項目を削除
事業主に向けては、採用時に使用する履歴書は、新しい様式を参考にするとともに、独自に履歴書を使用する場合に、今回発表した様式と異なる記載欄を設ける場合には、公正な採用選考の観点に留意するよう促している。
店主が前職にいたころ、顧客である欧米の巨大IT企業からの監査項目に、「履歴書に写真貼付を要求しないこと」という項目があり、面食らった記憶がある。欧米では写真が貼ってある履歴書を使用して不採用にした場合、人種による採用差別と認定される可能性が高いということであった。
日本にいるとなかなかピンとこない感覚ではあるものの、言われてみると確かに納得がいく。世の中の多様性尊重への流れは、現在進行形で日々すすんでいる。人と向き合う人事メンバーは世の中の流れに対する感性をさらに磨いていく必要があるだろう。
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ISO30414
これから人事業界でブレークしそうなのが、国際標準化機構(ISO)が2018年末に策定したISO30414『人事・組織に関する情報開示(=ヒューマンキャピタルレポーティング)の全体ガイドライン』。
ISO9001(品質マネジメントシステム)や1SO14001(環境マネジメントシステム)などはご存じの読者も多いと思うが、これらと同じマネジメントシステムの1つであるものの、これらが「義務」を定めているのに対し、ISO30414は義務化されていないガイドラインとい位置づけだ。
具体的には、「組織が従業員に関する人的資源の情報について、定量化および分析し、開示するための具体的ガイドライン」といった内容だ。これは、品質や環境といった、どこの国や企業でも同じ仕組みと水準が適用できるものに対し、人については企業ごとの経営戦略によって人的資源のあり方や開示の是非は異なるというスタンスによるものである。
内容は、以下の11の項目と58の指標で構成され、指標の多くに数値を計算するための計算式が設定されている。たとえば、採用社員の質という指標では、「採用社員の質=試用期間中の評価点総和÷採用人数」となっている。
この指標が注目されてきている理由の1つには、「企業の無形資産の価値を把握したい」という投資家のニーズがある。米国では昨年から人的資本関連情報の開示が義務化され、それに関する国際指標としてクローズアップされている。
このISO30414は、人的資本に対する評価指標であるため、その指標の設定に特徴がある
グローバルで主流になっている雇用慣行や仕組みを前提としている
算出された数値は、経年変化や他社との比較など相対評価に適しており、到達基準とはならない
株主への情報開示が重要な上場企業においては、この指標を導入するメリットはいろいろとある。しかしそれ以上に、店主はこの指標の使い方次第で、人事部門の社内における役割を劇的に変化させるツールになると考えている。
■PDCAが回せる
これまでの人事部門の仕事のやり方は、業務の性格に負うところが大きいものの、導入してしっぱなし、発信して終わり、振り返りも定性情報のみといった、きっちりと自部門でPDCAを回してより良いものを継続的に追及していくという、仕事のしかたが苦手である。
ゆえに、何年かに一度おとずれる「人事業界のはやり」に「人事に素人の経営者」と一緒にのっかってしまい、事業部や現場から「余計なこと」ばかりやらせて、これが一体どう売上や利益につながるのか?といった目線を醸成し、コストセンターの烙印を押されてきた。
数値目標は結果指標であり、それを導き出すためにさまざまな施策を打っていくわけだが、結果が目標に達しない場合、原因を追究し、それに新たな対策を打って目標数値に近づける活動のくりかえしが成長へとつながる。
自社の経営戦略を達成するために、どのような人事戦略を描き、施策を実行し、目指すべきゴールに中長期的視点で近づけるのか、そのような仕事をすすめ方が「戦略人事」といったワードで求められており、そのツールとして大きな可能性を秘めているといえる。
■経営に対する貢献度を見える化できる
もともと株主が企業のポテンシャルを知りたいというニーズによって出てきた指標である。その情報は株主以上に経営者が必要としている情報であり、まさに「経営計画の達成のための人的資源の状況」を数値化しようという試みなのである。
自社の経営計画達成のために描いた人事戦略について、その進捗状況がどのようになっているのかを定量的に把握できるし、他社との水準比較によるポジショニングの検討にも有効である。
情報の開示とは別次元として、このような使い方をしていくことで、経営計画と人事戦略や施策の紐づけが見える化され、人事部門の経営に対する貢献度を可視化することができる可能性を秘めている。
奇しくもコロナにより、我々は働き方を含めた価値観の大きな変化を余儀なくされている。そんな中グローバルスタンダードのベストプラクティスから学べることはたくさんあるのではないだろうか。