理念共有
ここ半年ほど、クライアント企業の新任管理職に対する経営理念の共有活動をお手伝いさせていただいている。基本的にインハウスでの活動なのだが、各イベントにはオブザーブし、意見を求められればアドバイスをさせていただいている。
経営理念共有の取り組みは、わが国ではバブル崩壊後の1990年代に注目され始めた。きっかけは1995年に米国で出版された「ビジョナリー・カンパニー」という書籍で、バブル崩壊でよりどころを失いかけていた当時のビジネスパーソンの多くが手に取った。
企業の成功要因を分析した結果、共通するのが経営理念の共有とそれによる経営、組織運営という内容であった。
店主が当時在籍していた会社も、1997年に系列の部品メーカー3社が合併し、その後、経営理念の再定義と共有活動を組織運営の軸にしてきた。さまざまなバックグラウンドを持った人々がベクトルをひとつにするためには欠かせないものだ。
がしかし、理念経営を経験したことのない組織やそこで働く人々にとって、この経営理念の共有という概念をイメージするのは、相当ハードルが高い。とても抽象度の高いテーマだからだ。
経営理念をきれいにまとめて整理し、社内のいたるところに掲げ、社員にも解説書を配って説明をしている会社は多い。しかし日常の職務行動において、理念を実践し説明できるか?となると相当な難易度となってくる。
理念共有活動における店主の定石は、「自身の物語を通して、仕事における理念実践事例を伝える」である。キリスト教が聖書によって教義に沿ったよき行動をわかりやすく伝えるのと同じ方法だ。
しかし今回、この「自身の物語」を綴るという作業が、これほどまでにイメージしづらく、難易度が高いものだということを再認識させられた。
対象メンバーに時間をとってもらい、対面で事例を紹介し、物語り作成のステップなどもかなり詳細に提示した。その上で検討の時間をしっかり取り、持ち込んでもらったのだが、何度打合せの場を設けても形にならないのだ。
これではいつまで経っても先にすすまないと、あれこれと考えた結果、慣れていないのでは、という仮説を立てた。そこでヒアリング&壁打ち形式で、自身の顧客によろこんでもらえたエピソードをたずねることにした。
それでも最初は期待する内容を語ってもらえない。戦略のようなスケールであったり、べき論で行動原則ばかりを述べたり、具体性に欠けるなど、とても「物語り」と呼べるものではないのだ。
しかし、30分程度お話をうかがって深堀りしていくと、ようやくその根底にある具体的な行動にたどり着くことができた。
管理職クラスでさえこんな感じである。現場で働くメンバーが理念と仕事を結びつけるというのは、かなりたいへんな道のりだということがわかる。
理念を体現した経験は、管理職クラスであればだれにでもある。しかし、それを自分のメンバーに伝えていくのはとてもむずかしい、ということをあらためて認識させられた一週間であった。