信頼関係が崩壊する「形だけ」のコミュニケーション
話をきくという漢字には「聞く」と「聴く」という漢字がある。辞書的には「聞く」は、音が自然に耳に入ってくること、「聴く」は、意識を集中させて注意深く耳を傾けることを指すとされる。「hear」と「listen」といえばニュアンスがわかりやすい。
「形だけ」のコミュニケーションを定義するとすれば、内容や心は伴わず、表面的な形式や儀礼だけを整えるやり取りのことだ。「hear」の方である。具体的には以下のようなやり取りがあげられる。
廊下ですれ違った際などに、目も合わせず、ただ「お疲れ様です」と言うだけで、相手の状況や気持ちにはまったく関心を払わないものや、朝礼での形式的なスピーチ、定型的な連絡事項の読み上げなどといった「形だけの挨拶」。
事前に資料を読まず、自分の意見もないままただ参加しているだけの会議であったり、「やった」という事実を作るための、中身のない、定型文のみの業務報告や日報といった「目的が曖昧な会議・報告」。
上司がマニュアル通りの質問をするだけで、部下の本音や悩みを聞き出そうとしない、あるいはフィードバックがない個人面談のような「儀礼的な1on1ミーティング」などである。
これらの行動は、人間関係の表面的な維持や、社会的な義務を果たすことに主眼が置かれていることが多く、以下の特徴が見られる。
- 傾聴姿勢の欠如:相手の話を真剣に聞かず、次の自分の発言や時間の消化だけを考えている
- 感情や本音の不在:自分の本当の考えや感情を伝えようとしない
- 情報伝達のみ:必要な情報や指示を伝えるだけで、信頼関係の構築や相互理解を深める意図がない
つねにこのようなコミュニケーションのみに終始されたら、読者のみなさんはどんな気持ちになるだろうか?

「形だけ」のコミュニケーションは、一見円滑に進んでいるように見えても、長期的に見ると信頼関係を蝕み、最終的に崩壊させる大きな要因となる。その理由は、以下の3つの要素が欠けているためだ。
本音と行動の「不一致」による不信感
形だけのコミュニケーションは、しばしば「社交辞令」や「建前」によって成り立っている。「また今度ゆっくり話しましょう」「あなたの意見を尊重します」など、具体的な行動や実行の意思を伴わない言葉が続くと、部下は「この人は言うこととやることが違う」と感じてしまう。
部下は、自分の話が表面的な返事だけで流されている、あるいは義務感で接されていると感じる。「この人は誠実ではない」「私を大切にしていない」という不信感が生まれる。
この不一致の積み重ねが、部下の中で「信用できない人」という認識に変わり、信頼関係の土台を崩していく。
「傾聴姿勢の欠如」による孤独感・無価値感
「形だけ」のコミュニケーションは、相手の話を心から聴く姿勢(傾聴)が欠けている。部下は、自分の話や悩みが深く受け止められていない、ただ形式的に処理されていると感じる。「自分の言葉を大切に扱って欲しい」「自分の話に共感して欲しい」という基本的な欲求が満たされない。
自分の存在や発言に価値がないと感じるようになり、精神的な孤立感を覚えていく。結果として、部下はあなたに本音を話すことをやめ、重要な情報も共有しなくなる。
「自己開示の不足」による壁の存在
信頼関係を深めるには、ある程度の自己開示が必要だ。しかし、形だけのやり取りでは、お互いに一歩踏み込んだ情報を開示することを避けてしまう。自分の弱さや本当の感情を隠し、あたり障りのない話に終始するため、2人の間にいつまでも心理的な壁が立ったままになる。
上司の「人となり」や「本心」が見えないため、「何を考えているかわからない」という不安や警戒心が生まれます。緊急時や困難な状況になったとき、「本当に助けてくれるのか」「裏切らないか」という疑念につながる。
信頼関係とは、「この人は裏切らない」「この人は自分を尊重してくれる」という安心感の積み重ねなのだ。「形だけ」のコミュニケーションは、この安心感ではなく、「どうせ本心じゃない」「どうせ聴いてない」という不信感を積み重ねてしまう。最終的に強い関係性を築くことができず、簡単に崩れてしまうのだ。
形だけのコミュニケーションはそこに心がこもっていないことが伝わってしまい、部下は信頼の気持ちをなくしていく。部下をひとりの人間としてしっかりと向き合うという、人としてあたり前の姿勢が大切なのである。